教授 和田 洋一郎
大学院工学系研究科 先端学際工学専攻(先端科学技術研究センター) 兼務
大学院医学系研究科 分子細胞生物学 兼任
第一種放射線取扱主任者
出身地:東京
趣味:読書と水泳とできればバイオリン
がん患者初診時において約1/3は隣接臓器浸潤や遠隔転移を伴う進行がんであることから、外科的切除などの治療の適応とならず、化学療法や免疫療法によってのみ治療されて生存率が2割を下回っています。このような初診時進行がんに対する治療法として、近年α線内用療法の有効性が実証され医薬品開発が進んでいます。
α線は飛程が短いので、抗体などを用いたドラッグデリバリーシステムを用いて悪性腫瘍細胞に特異的に取り込ませることによって、他の核種に比べて高効率でがん細胞のみを攻撃することができます。また半減期の短い所謂“短寿命”α線放出核種を選択することによって、投与後速やかに放射能が消失し、正常組織の被ばくを抑制することができます。
例えばα線放出核種であるアスタチン-211は、サイクロトロンによってαビームをビスマス-209に照射することによって製造された後、精製されることによってドラッグデリバリーシステムの標識に利用されます。現在我が国において他のγ線やβ線放出核種と比べて20倍厳密に管理することが法律で定められているα線放出核種の利用に関わる作業者の安全を確保するとともに、今後増大するニーズを満たすアスタチン-211を大量かつ安定的に製造するためには、一連の作業効率を大きく改善する必要があります。
そこで、私達はその精製と標識の行程を自動化することによって、この問題を解決したいと考えています。従来、数理科学者との共同研究において、ヒト研究者では困難な、1分間隔で生命現象を観察するための迅速で正確な実験操作を行うヒューマノイド型ロボットを開発して実験を行ってきました。現在私達は、加速器研究者、ロボット研究者、医学研究者と協働してこのロボット技術によるα線放出核種の製造・精製・標識行程の自動化に取り組んでいます。さらに、情報工学研究者によるセンサーシステムを活用した制御技術や、数理科学者による機械学習機能の実装によって、事故予測システムや自律的な製造量最適化システムを開発し、一層安全なアイソトープの利用を目指しています。
図1. 多分野の研究者による学際的な放射線研究を通じてα線医薬品開発による地域産業振興を目指す
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