東京大学アイソトープ総合センター Isotope Science Center,The University of Tokyo

特任助教 桂 真理

特任助教  桂 真理

出身地:広島
趣味:スポーツ観戦、料理

専門分野 ⟩⟩
放射線生物学・分子生物学・眼科学
研究内容 ⟩⟩

1. 低線量放射線影響研究について

日本人は自然界で生活している間に、年間一人当たり平均2.1ミリシーベルトの自然被ばくをします。これまでの研究から、150ミリシーベルト以上の被ばくをした人は統計学的に発がんのリスクがあがることがわかっていますが、100ミリシーベルト以下の低線量放射線は、疫学研究でその影響を調べることが困難です。2011年の福島第一原子力発電所事故で、多くの人々が低線量放射線の影響を危惧して避難生活を行うこととなりました。低線量放射線の影響がどれほどのものなのかを少しずつ明らかにすることで、被害にあわれた住民の方、多種多様な職種の労働者、また、次の世代の人々の役に少しでも立てればと考えます。
私は低線量放射線が人体にもたらす影響について、培養細胞や実験動物を用いた研究を進めています。アイソトープ総合センターには密閉放射性セシウム(Cs-137)線源によるガンマ線照射装置があります。この照射装置を用い、ヒトの培養細胞に長時間低線量放射線を照射した影響を研究しています。今後は質量分析装置を用いた研究も行う予定です。

2. 内部被ばく影響研究への挑戦

内部被ばくの影響は、アルファ線やベータ線などの飛程の短い高LET放射線の影響を評価する必要があるために、吸収線量の計算が困難です。そのため外部被ばく影響と比較すると歴史的に蓄積された研究データは少数です。内部被ばくを想定し、細胞培養液に非密封放射性セシウムを添加した際の影響を共同研究者らと共にモンテカルロ法を用いた線量計算で検出する方法に取り組んでおります。

3. 低線量放射線と神経との関係は?

これまで分化した神経組織は放射線に抵抗性であると考えられてきましたが、ヒトの脳内(海馬)には未分化な神経前駆細胞が存在することが明らかとなり、これらの細胞は放射線感受性であると予想されます。 そこで、これまでにヒトES細胞に由来する神経前駆細胞への低線量放射線の影響を共同研究者らと研究しました。 その結果、31および124ミリグレイ/72時間の照射で種々の遺伝子発現が変動し、496ミリグレイ/72時間では細胞死に関する遺伝子も変動し始めることが確認されました(図1低線量放射線によって発現変動する遺伝子群(ヒト神経前駆細胞))。

Katsura M et al. Effects of Chronic Low-Dose Radiation on Human Neural Progenitor Cells. Sci Rep. 2016 Jan 22;6:20027. doi: 10.1038/srep20027.

これらの結果に引き続き、現在はヒトのiPS細胞を網膜神経節細胞(網膜が受けた視覚情報を脳に伝達する視神経を構成する)に分化させる実験系を用いて、低線量放射線による影響を網羅的に解析しています(図2:iPS細胞から分化した網膜神経節細胞)。 次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)やクロマチン免疫沈降 (ChIP-seq) を用いています。 ヒトの網膜神経節細胞は胎生5週から11週で発生するとされていますが、低線量放射線に被ばくした際、どのような遺伝子発現変動が起きるのか、そのことがどのように網膜神経節細胞の分化に影響を及ぼすのかを予測するために必要な情報を集めていきたいと考えています。


図1 低線量放射線によって発現変動する遺伝子群(ヒト神経前駆細胞)


図2 ヒトのiPS細胞から分化した網膜神経節細胞

本研究に関する研究費 ⟩⟩
平成27年度 挑戦的萌芽研究
「BRAF遺伝子点突然変異頻度に基づく放射線影響評価」(研究分担者)
平成27~30年度 基盤研究(A)
「エピジェネティック活性をもつ化学物質の影響把握と新たな環境リスクの予防策」(研究分担者)
研究論文 ⟩⟩
  1. Katsura M, Cyou-Nakamine H, Zen Q, Zen Y, Nansai H, Amagasa S, Kanki Y, Inoue T, Kaneki K, Taguchi A, Kobayashi M, Kaji T, Kodama T, Miyagawa K, Wada Y, Akimitsu N, Sone H. Effects of Chronic Low-Dose Radiation on Human Neural Progenitor Cells. Sci Rep. (査読有) Jan 22;6:20027. doi: 10.1038/srep20027, 2016
  2. Yasuhara T, Suzuki T, Katsura M, Miyagawa K.Rad54B serves as a scaffold in the DNA damage response that limits checkpoint strength. Nat. Commun. (査読有). Nov 11;5:5426. doi: 10.1038/ncomms6426, 2014
  3. Katsura M DNA Damage Response Mechanisms in Neurodegenerative Diseases. Radiation Biology Research Communications. (査読有) 47, 394-407, 2013
  4. Katsura M, Tsuruga T, 他10名The ATR-Chk1 pathway plays a role in the generation of centrosome aberrations induced by Rad51C dysfunction. Nucleic Acids Res. (査読有); 37(12):3959-68. 2009
  5. Tomoda Y, Katsura M, Okajima M, Hosoya N, Kohno N, Miyagawa K.Functional evidence for Eme1 as a marker of cisplatin resistance. Int J Cancer. (査読有);124(12):2997-3001. 2009
  6. Shimura T, Torres MJ, Martin MM, Rao VA, Pommier Y, Katsura M, Miyagawa K, Aladjem MI. Bloom's syndrome helicase and Mus81 are required to induce transient double-strand DNA breaks in response to DNA replication stress. J Mol Biol. (査読有)Jan 25;375(4):1152-64. 2008
  7. Date O, Katsura M, Ishida M, Yoshihara T, Kinomura A, Sueda T, Miyagawa K. Haploinsufficiency of RAD51B causes centrosome fragmentation and aneuploidy in human cells. Cancer Res. (査読有) Jun 15;66(12):6018-24. 2006
  8. Hiyama T, Katsura M, Yoshihara T, Ishida M, Kinomura A, Tonda T, Asahara T, Miyagawa K.Haploinsufficiency of the Mus81-Eme1 endonuclease activates the intra-S-phase and G2/M checkpoints and promotes rereplication in human cells. Nucleic Acids Res. (査読有)34:880-92. 2006
  9. Yoshihara T, Ishida M, Kinomura A, Katsura M, Tsuruga T, Tashiro S, Asahara T, Miyagawa K. XRCC3 deficiency results in a defect in recombination and increased endoreduplication in human cells. EMBO J. (査読有)Feb 11;23(3):670-80. 2004
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